ハプニングいろいろ v5-65
コロナ禍も落ち着いてきたので、ようやく幼馴染みと会う
約束が出来た。彼女と私は中学時代の同級生である。
思えば随分と長いお付き合いになる。約束の日が数日前に
迫った昼下がりだった。突然、彼女から電話が入った。
「会うことが出来なくなった」と言う。甲高い声で何やら
興奮している様子だ。
「どうしたの?」と聞くと、「転んでしまったの」と言う。
転んだのは、良く散歩に出かけるご主人の方だと思って
いたら何と当の本人が転んだらしい。しかも家の中で。
彼女は転んだ折、左手首を骨折、更に悪いことに頭上に
あった花瓶をひっくり返して、その破片を頭に浴びて
しまったらしい。一体どんな転び方をしたのだろう。
早速、彼女は病院へ駆けつけ、頭に刺さった破片を取って
もらい、骨折した左手首は固定され、首から三角巾の状態
で帰ってきたそうだ。家の中で転ぶことはよく聞く話だが、
高齢者にとって厄介なのは、転ぶとすぐに骨折に
つながってしまうことである。
このことで彼女は生活が一変してしまったようだ。
当然、家事一切は彼女の夫の仕事になった。
今まで家事とは全く無縁の日々を過ごしてきた彼女の夫に
とっては正に青天の霹靂であったに違いない。
あれかれ10日後、どうしているかと彼女に電話をすると、
いつもの落ち着いた彼女の声がかえってきた。
心配だった彼女の夫も一生懸命家事をしているそうだ。
ただ、コンビニへ通う回数が増え、出来合いの料理が
食卓に良く並ぶ様になったと不満げに言う。
何よりも、通院時には夫の付き添いが必要になったと
彼女は盛んに嘆いた。病院へ行くと老人夫婦の多さに目を
見張るが、恐らくその老人たちの半分は付き添いに違い
ない。年を取ると二人で一人前であるということである。
そんなわけで楽しみにしていたデートがフイになり気落ち
していた矢先、嬉しい誘いがあった。旧友のMさんである。
彼女も、「そろそろ会いませんか」と私に言ってきた。
そこで早速、新宿で会うことにした。
約束の当日だった。突然の人身事故で交通機関が大いに
乱れた。しかし彼女はこのハプニングにもめげず30分の
遅刻で約束の場所にやってきた。
もし同世代の友人だったらきっと約束のデートは延期か
キャンセルになっていたことだろう。
Mさんは私より一回りも若い。若い友人がいて良かったと
つくずく思った瞬間だった。
2023年11月
(photo by y.y: 秋山郷にて)