早足の人      v5-62
 
 歩道を歩いている時に他人に追い越されるのが気になるように
なった。私を追い越す人達の大半は、細身のジーンズやショート
パンツの若者、制服姿の高校生、スーツを着たビジネスマンなど
である。が、たまに「え!高齢者じゃないの!」なんて後ろ姿
を見てビックリする時もある。

私も追い越されてばかりではない。
もっとも私に追い越される人たちは殆どがお年寄りであるが。
多分、彼らは追い越した私を見て私と同じように思っている
かもしれない。「え!年配者じゃないの!」って。



先日、ジムの仲間、私よりはるかに若いSさんに「歩くの速い
のね!」と言われて驚いたことがある。彼女は度々ジムの
レッスンで一緒になる50代くらいの女性で私より少し遠方
から歩いてジムへ通っている。
その道すがら私の後ろ姿を見つけたそうだ。彼女は私に
追いつこうと足を速めたが一向に追いつけなかったらしい。

若い頃を思い出す。
私は夫の後ろ姿を見失わないようにいつも小走りで歩いて
いたものだった。それが今は、二人で外出すると、いつの間
にか私が先になり、私が振り返っては夫の姿を確認するよう
になってしまった。いつから逆転してしまったのだろう。

コロナ前のことである。
久しぶりに会った同級生が「すり足」で歩いているのを見て
驚いたことがあった。また杖にすがって必死に歩いていた
知り合いを遠くから眺めたこともある。世の中には自力で
歩くことさえ儘ならぬ人たちが沢山いるらしい。
歩く速度を云々出来るなんて幸せなことかもしれない。



しかし、実は私が調子よく軽快に歩けるのはジムへ向かって
いる時だけである。帰宅時にはすっかり様子が変わっている。
運動後の疲労感と背中に背負った重いザックのせいである。
ザックの隙間にはスーパーで買った食材がいっぱい、さらに
両手にはエコバックと日傘である。私は脇をすり抜けていく
沢山の人達の背中を見ながら、苦々しく
「追い越される気持ち」を味わっている。

こんな姿をSさんが見たら驚くだろう。
だが幸いなことに彼女は私より遥かに多くのレッスンを
こなしているからそんな機会はなさそうだ。
そのせいか私は未だに「早足の人」で通っているようだ。

           2023年8月


       (photo by y.y:玉川上水緑道にて)
  


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