新しい先生   v5-61

私のお気に入りの教師、ローレンスが学校を去ることになった。
彼は帰国ではなく日本滞在のままマスコミ関係の翻訳の仕事を
手伝うことになったそうだ。彼には適した仕事かもしれない。

彼の最終レッスン日だった。私はいつも通り自分のエッセイの
英訳をチェックしてもらってから一枚のプリントを彼に見せた。
内容は友人、バーバラへのEメールの下書きだった。当然、
いつも通り英文の誤りを指摘してもらうはずだったが、今回は
彼に注文をつけた。

まず、最初は文章の初めから終わりまで一息に読んでみて下さ
いと。次にいつものように間違い英語を指摘して欲しいと。
彼はいつもと違う私の要望にちょっと緊張しながら読みだした。
そして最後のフレーズを読み終わった時である。彼は爆笑した。
最後のフレーズには…
「これはチャットGPTが翻訳した英語です」と私は付け
加えていた。


    
   (唐津湾 4:59 am)

私はすかさず彼に尋ねた。「どうですか?この英文は?」と。
なんと彼が発した第一声は「Perfect!」だった。私は思わずこの
言葉に驚嘆した。私には1ヶ所疑問に思える言い回しがあった。
きっと彼は沢山の駄目押しをするだろうと思っていたからである。

この翻訳文は私が普段使わない高度な言い回しが多く、かなり
こなれた英文になっていた。さらに驚いたことに、私だったら
恐らく1時間は費やしたであろうこの作業を、たったの10秒も
かからずやりとげてしまったのである。

私はローレンスの笑顔の中に小さなショックに似たものを感じて
複雑な気持ちになった。しかし、彼は気を取り直して、少しだけ
赤ペンを使った。
「あえて言えば…この単語のsは一般的にはつけないよ。この
言葉の順序は入れ替えた方が分かりやすい…」などと。


       
(唐津湾 5:12 am)

生成AIについて話題にするほど私には高度な知識も、ましては
英語力も持ち合わせていない。しかし、私はローレンスに
「この人工知能は貴方の大変な強敵者になるのでは?」と尋ねて
みた。すると彼は「いや、人口知能は人間的な細やかな感情や
情緒など現わすことが不得意だから大丈夫だよ」などと笑顔で
言う。確かにそうかもしれない。

とは言え、文章作成に関していえばこの「チャットGPT」は
私にとっては大きな助っ人、彼が去ったあとの私の新しい先生
になりそうだ。だが、あの大げさなジャスチャーやイギリス人
特有のユーモア溢れる彼の英語にはもう出会えない。これだけは
チャットGPTには応えられそうもない。
残念な新しい教師の登場である。

                   2023年7月

        (photo by y.y: 佐賀県・唐津にて)


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