雨の日に…       v5-59

  天気が悪くなると分かっていながら出かけるのには勇気がいる
ようだ。信州、清里高原に出かける時もそうだった。
しかし、Tさん(娘の夫)と私はかなり楽観的で翌日は天気が持ち
直すはずだと信じていた。一方、夫や娘は心配でそわそわしていた。
夫などは「やめた方がいいかも」などと旅行前日まで思い煩って
いたようだ。


しかし旅行は決行した。
大雨の中、夫は折畳み傘ではなく長傘を持参して電車に乗り込んだ。
車中で合流した娘も同じような傘を持っていた。
韮崎駅からTさんの
運転で旅のスタートを切った。



予報通りの雨の中、行先は平山郁夫美術館である。
前もって雨の日のために決めていた処であった。ここへは随分昔、
夫と訪れたことがあったが、記憶がすっかり曖昧になっていた。
少ない閲覧者であった。のんびりとシルクドードの世界に浸ることが
出来たのは雨のおかげである。

そこから私たちは「萌木の村」に向かった。イギリス人が設計したと
言われる広い敷地にナチュラルガーデン、オルゴール館、プチホテルや
レストラン、カフェ、などが点在し、小高い丘の上にはちょっと
風変わりなメリーゴーランドがあった。


ここのレストランで人気のランチ「ROCKビーフカレー」を食べた。
野菜たっぷりのまろやかなカレー味は期待通りであった。
雨はますます激しくなる。そんな中、夫は「風がないのがいいよ」
などと言い、外に出る準備を始めた。
夫は、ナチュラルガーデンを歩くらしい。隅から隅まで歩くのに
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分程だとレストランのスタッフから聞いてきたのが彼を
振るい立たせたらしい。




私はしぶしぶ彼に従うことにした。娘も面白がってついてきた。
Tさんは私たちが行き着く地点まで車を回して待っていて
くれることになった。


背丈のあるピンクの野ばらが雨に打たれて遊歩道に垂れていた。
白や黄色の草花の群れは足元で光っているようだ。
夫の視線は忙しく動き回り、カメラのシャッター音が雨音に
交じって時々響く。うっかり夫の前に出ようものなら
「邪魔!もっと下がって!」などと言われ、夫の背後で上手に
傘をささないと、これまたお小言が飛んでくる。


娘は「カメラを持つと人が変わるのね!」などと盛んに
父親の撮影風景を楽しんでいるようだ。時には父親に言われる
ままにカメラの被写体になったりしている。
カメラがないとかなり滑稽な集団に見えたに違いない。何しろ
この大雨警報の中である。散策する観光客は誰一人いなかった。


歩いたのは15分ほどだろうか。私たちの靴はすっかり雨水を吸い、
その被害は靴下まで及んだがホテルのドライヤーのお陰で
事なきをえた。
翌日は晴天、Tさんと私が望んだような好天になった。

             20236

(photo by y.y: 清里高原・萌木の村にて)


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