外す? 外さない?    v5-58

 コロナ禍の規制が緩和され、マスクを外す人々を見かけるよう
になった。ジムのレッスンでもマスクなしの会員が少しずつ増え
ている。しかし大半はまだマスク派である。私もそのひとりである。

すっかり馴染みになったジムのインストラクターが二人いる。
その内の一人は、3月から新たに開設された「骨盤フレックス」と
いう中高年に人気のレッスンを担当している。
そのレッスンで初めて彼女を見た時、私は目を見張った。

彼女はまるでモデルのようだった。均整のとれた長身に派手な
スパッツとスポーツブラトップ、さらに金髪のショートヘアーを
なびかせて、いつも颯爽とスタジオに現れた。自信に満ちた体躯…
これぞインストラクターといった感じである。




今まで彼女と縁がなかったのは、エアロビクスなどという動きの
激しいレッスンを私が受けていなかったせいらしい。
その彼女のレッスンはハスキーで落ち着いた声に導かれてあっと
いう間に終わる。ぴったり30分。毎回、既定時間に殆ど誤差なく
終わるのは見事なものである。


その彼女が先日、マスクを外して現れた。ようやく彼女の素顔と
対面である。きっと美人に違いない。
ワクワクしながら目を合わせたが、残念ながら期待外れだった。
もっとも彼女は十人並みには違いない。がっかりしたのは私の
期待感が大きかったせいだ。しかし、何といってもあのスタイル
である。その上、顔立ちまで完璧では世の中、不公平過ぎる。
それにしてもチャーミングな笑顔である。彼女はいつも
このような笑みを浮かべてレッスンを進めていたのだろうか。




もう一人はヨガのインストラクターである。
彼女の生徒になってもう3年ほどになる。地味で平凡なスポーツ着に
身を包み、穏やかに進める彼女のレッスンは好評で、最近は受講
する仲間が増えてきた。
マスクから覗く彼女の爽やかな目元とちょっとふっくらした体形
から、私は彼女は50才前後だと想像していた。


その彼女も先日、マスクを外して現れた。
彼女はすっきりした顔立ちで私を見ると微笑んだ。肌が艶々して
頬にうっすらと赤みがさしている。美しかった。
そして彼女は私の想像以上に若かった。

さて私のマスクである。外すのは皆の様子を見てからと決めているが、
本当はマスクを外すのが恐くて恥ずかしい。
「あの方、結構、年取っているのね」
などと周りから言われそうである。
事実、大いに年を取っているのに…。

           20235


             (photo by y.y: 神代植物園にて)


 top  y.y.corner f. salon  essay old