ワクワク、ドキドキ      v5-56

 「ワクワク、ドキドキでした!」とラインで言ってきたのは
友人の一人、84才になるHさんだった。
年寄りの心をこんなにも揺さぶった出来事は久しぶりである。
互いに「恐らく孫たちの高校、大学の合格発表以来だわね」と
言い合った。先日、日本の優勝で終わったWBCのお話である。

そのWBCで、アメリカとの決勝戦の日だった。
ジムのヨガクラスは閑散としていた。インストラクターも
「こんな日に参加してくれてありがとう」などと私たちに言った。
この日は公然と休みを許される日でもあったようだ。



「頭を空っぽにして下さい」などと、いつもポーズの最中に言う
ヨガインストラクターの言葉は、この日の参加者には上の空で
あったはずだ。レッスンが終わると皆、一斉にテレビの前に
ダッシュした。大きな群れの中で、年齢に関係なく同じ話題で
盛り上がる中高年の姿が妙に眩しく新鮮だった。

しかし、思い入れもほどほどにしないといけない。
なにしろ私には負のショックに耐えうる免疫はもう殆ど残され
ていないようだから。そのせいか防衛本能が働いて、いよいよと
なると逃げ腰になる。そんな私が最終結果を知ったのは
ゲームセットになってからであった。

それから至福の時間が始まった。何回も繰り返される映像を
テレビで見ながら「長生きするとこんな感動も味わえるのよ」など
と、さっさと逝ってしまった友人たちに言ってみたくなった。



この先もきっと心躍る出来事が数多く待ち構えているに違いない。
想像しただけでもワクワクするが一番大事なことがあった。
それは感動する心である。これを失ってしまっては話にならない。

国内のプロ野球公式戦が始まった。
今年の球界で果たしてワクワクドキドキの機会があるだろうか。
何しろ一流プレイヤーたちをしっかり見てしまったあとである。
観客の目が肥えている。しかしWBCで活躍した選手たちの姿を
追ってみるのも悪くない。例えば中日の高橋宏斗選手、ヤクルト
の村上選手、西武の山川選手や源田選手たちである。
勿論、大谷選手とダルビッシュ選手の活躍は目が離せない。
とはいえ何事もワクワクドキドキはほどほどで…。

            2023年3月

              (photo by y.y:小平中央公園にて)


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