しなやかな発想      v5-54

我々夫婦の初詣は、当地に越してきてからずっと地元の小平神明宮
と決めている。我が家からそこまでの距離は往復約9キロである。
平坦地とはいえ半端ではない距離だ。しかし、行程の大部分は足に
優しい玉川上水緑道歩きである。

この歩行が15年以上も続いているのは案外このルートのお陰かも
しれない。しかし、実はこの長い距離を電車を使わずに歩く理由は
もう一つある。それはこの初詣で体力の現状を測れると二人とも信
じているからである。

今年の初詣は正月三ヶ日を一週間ほど過ぎた風のない暖かい日を
選んだ。今回は歩行困難になったらさっさと東大和市駅から電車で
帰ることにしていた。こうして万全を期して出かけたが、電車の
助けは必要なかった。それどころか今年は思わぬ収穫があった。
神社近くで見つけた「うどん屋」である。
そこで初めて口にした小平麺なるうどんが実に美味だった。



帰宅して去年の記録を調べて見ると、歩いた時間は約2時間半、
歩数は15,000歩余りと記されている。今年も何と去年とほぼ同じ
歩行時間、歩数であった。この成果は何よりも私たちに、小さな
自信と心地よい達成感を与えてくれた。

何しろ最近は、出来ないことが多くなったせいか物事に対して
慎重になり臆病になっている気がする。例えば海外旅行。これは
もう無理かもしれない。まず大きなスーツケースが頭をよぎる。
だいたい空港のターンテーブルから自分の荷物を引きずり下ろす
ことが出来るだろうか。

山歩きはどうだろう。昨年は3時間ほどのハイキングは何とか出来た
が今年はわからない。岩場の多い山登りは無理に違いない。
バランスを崩して転倒するか足をひねって捻挫するかもしれない。
たとえ何とか登っても下ることは容易ではない。何とも悲観的な
現象ばかり頭に浮かんでくる。



そんな時、新聞で見つけた本のキャッチフレーズを思い出した。
「年を取ったら引き算より足し算で生きなさい」と。高齢者には
心地よい言葉だ。確かに、今年の初詣は引き算になるかと思って
いたら「小平麺うどん」の発見と言うおまけがついた。これは
足し算である。

では海外旅行はどうだろう。荷物の問題は随行者がいれば即座に
解決するだろう。山登りについてはケーブルがある山を選べば
大丈夫そうだ。何事も発想の転換である。とは言え、財力も
足し算には欠かせない条件ではないだろうか。

例えば先日、一度も体験したことがない寝台列車に、突然乗って
みたいと思いついた。そこで調べてみた結果、トイレ付き個室料金
の高さに仰天してしまった。やっぱり財力は無視できない。
しかし、ここで悲観したまま諦めてはいけないようだ。
寝台列車の種類や個室のあり様などネットを駆使して調べ上げた
自分を大いに褒めてあげればいいのである。その時こそ、
この年齢にしては良く調べたね!と。

とはいえ欲望と折り合いを付けながら生きるのは大変である。
そこでしなやかな発想である。この心情を忘れない限り、楽しく
人生を送れそうな気がしてきた。それには今年も気力、体力そして
知力の減退に立ち向かわないといけないようだ。

             2023年1月
  
(photo by y.y:新潟県・当間高原にて・2019年1月)
    
          
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