メル友?       V5-41

 パソコンのメール欄は、連日、旅行会社からの旅案内で溢れて
いる。殆どが大手の旅行会社、JTBと阪急、それにたまに
「大人の休日クラブ」である。いずれも過去の旅行でお世話に
なった旅行会社ではあるが、そのことを彼らは決して忘れない。
まるで先を争うように大量の旅行案内を送ってくる。

いっそのこと受信拒否にすればいいようなものだが、それが
なかなか出来ない。いつの日か再び大手を振って旅に出る日が
やってくるにちがいない。その日のためにもお得情報は
逃してはならないなどと浅ましくもメールのタイトルだけは
チェックするようにした。



そのタイトルに最近、個人名を入れたものが多くなった。例えば
「山川様へおすすめの温泉宿」、「山川様にぴったりなフリーツアー
のご案内」とか。旅行会社のコンピューターには、私の個人情報が
すっかりインプットされているようだ。

興味をそそる旅タイトルを無視するのは難しいものだ。
大抵、開封してしまうが、時節柄それ以上は進めない。そこで
思い切って削除するはめになるが、これが結構なストレスになって
いることに最近気が付いた。いっそのこと旅は紙上で行ったらどうか。
紙とペンでの旅、費用もかからない。それに何回も旅をキャンセル
している私には得意の旅である。



最近は「白骨温泉」に行ってきた。幼かった頃、父親が連れて
行ってくれた信州の山奥にある温泉宿である。
厳冬期、雪道をおぼつかない足取りでようやくたどり着いた
温泉宿だった。「白骨」というおどろおどろしい名前と共に
忘れられない場所になっている。その温泉地は、今はすっかり
アクセスが良くなり、松本駅からバスで直接温泉街に入れる
ようになっていた。

この地で昔の想い出を探ってみたい…そんな思いが湧き上がると
もう紙とペンでは限界である。
紙上の旅に多くを求めてはいけないようだ。そうしないと
これもまたストレスの要因となる。
そんな私の心情を無視して、今日もまた心憎いメル友?たちが
私のパソコン目がけて発信してくる。
「山川様にお勧めの白骨温泉のお宿」とかなんとか言って。

              2022年1月

     
(photo by y.y:富士山遠望2016年)



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