あと10年! v5-32
どこで終止符を打つか。一つのことをなし終えた後、必ず頭を
もたげてくるのはそのことである。老齢になってから益々その
傾向が強くなった。
エッセイ英訳本を出版してから2か月余過ぎた。
早速、英語学習の止め時の問題が頭の中で渦を巻きだした。
この年齢で今さらお金を払ってまで英語学校へ通う必要もあるまい。
一方、これはもう私の生涯学習なのだ…などと暫く逡巡する日が
続いた。
そんな中、新聞紙面で興味をひく記事に出会った。
それは紙上のコラム「ひととき欄」に載る文章をほぼ毎日、
20年間も英訳している女性の話である。彼女は何と89才である。
戦時中、英語学習もままならなかった彼女は戦後ようやく生の
英語に触れ、その後大学に2年通って中学の英語教師の職を得た
と言う。
驚いたのは彼女の英語に対する変わらぬ熱意である。
今まで訳した投稿文は実に8200編を越えたという。高校の英語
教師をしている娘の協力を得て時には難しい時事英語などにも
挑戦するらしい。彼女の目標はこの英訳をT万日目まで続ける
ことだという。目標とするその日までまだ4年余、晴れて目標
達成の頃は94才を越えている。
高齢にして、この壮大とも言える彼女の目標に思わず目を見張った。
私の「もう止め時か?」との言葉と何と大きな差であろう。
そんな中、エッセイ英訳本を手にしたリチャードやバーバラたちが
感想を送ってくれた。二人とも私に、これからも旅やファミリー、
友人たちとの日常をエッセイにして楽しませて欲しいと書いてあった。
私の幼稚な英文に心を寄せ感動してくれる海外の読者がいることを
忘れてはいけないようだ。
こうして止め時の問題はあっさり先送りとなった。
私もこの女性を見習って「英文エッセイ集V」を刊行する目標を
たててみた。そうなるとあと10年、その時、私は91才である。
英訳する私の最強の助っ人、ローレンスはそれまで私の教師で
いてくれるだろうか?先日彼に
「あと10年、イングランドに帰らず、どうぞ日本に居て下さいね!」
と言ったら彼は目を丸くして「ワオー!」と嬉しそうに叫んだ。
2021年4月
(photo by y.y:あきる野にて)
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