オイオイと泣く     v5-30

 I君とF君、そして私は中学の同級生である。
そのI君が新年早々あの世に逝ってしまった。最近、F君はI夫人の
訪問を受けたそうだ。F君からのメールはその時の様子を伝えて
くれるものだった。そのメールの中に気になる個所があった。
その部分を抜粋してみると。
…(I夫人は)K君、A君(共に中学の同級生)から相次いで電話を
  頂き、電話でオイオイ泣いていた事を伝えて帰られました…
とある。

私が注目したのは「オイオイ」である。
そのように泣いたのはK君、A君に違いない。しかし、夫によると
泣いたのは奥様、つまりI夫人ではないかという。どちらとも受け
取れる文面かも知れないが、何度読み直してみても泣いたのは
やはり男性の方に思えた。第一、女性の泣く様子を「オイオイ」
などと表現するだろうか。もっともF君が誇張して「オイオイ」と
書いたのなら別だが。



先日、I夫人と電話で話した折に彼女は私にこんなことを言った。
「お手紙頂いてウルウルしてしまって…」と。私が送った弔意文を
読んでの感想だった。
確かに泣き様の表現にはいろいろある。「ウルウル」もそうだが
「シクシク」、「メソメソ」、「サメザメ」、「ポロポロ」など
様々である。そして勿論「オイオイ」もある。

真相はともかくとして自身の状況を思い出してみた。
電話口で突然の訃報を伝えるI夫人の声に私は何故か涙しなかった。
一瞬言葉に詰まった時はあったが。強力な一撃を食らっても、
無意識のうちに身をかわし自己を見失わない心が何処かに潜んで
いたようだ。私はそんな自分にむしろ驚いた。



ところが先日、英語のレッスン中の時だった。
私が幼馴染の急死をたどたどしい英語で伝えていた時のことである。
なんと不意に目頭が熱くなり目を開けておれなくなった。暫く
眼鏡をはずしハンカチを当てたまま絶句した。英国人の教師は
驚いてそして優しく私に言った。
「I’m sorry! I’m very sorry!(ご愁傷さま!)」と。
こんな時の泣き様を人は何と表現するのだろう。

                2021年2月

              (photo by y.y : 府中市郷土の森にて)



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