内覧会           v5-29
 
「内覧会」というとマンション購入時を思い出す。
しかし、最近は歯科医院や美容院など、各種の内覧会が盛んだ。
そしてごく最近、何と「葬儀場」の内覧会があった。その会場は
我が家と100メートルも離れていないところにあった。ちょうど
一橋病院正門の隣である。前を通る度に「ファミリーホーム小平」
という真新しい看板が違和感を持って目に飛び込んでくる。

そういえば昔、公立昭和病院の入り口付近に、やはり同じような
葬儀場の看板を見つけたことがある。なかなか手回しのいいこと
だと驚いたが、別にそんな深読みは無用らしい。

   

早速、朝刊にチラシ広告が入ってきた。
夫は内覧会に行く気満々である。夫も私もここ1年以内にバタバタと
親しい友人を失った。永久の別れが他人事ではなくなったせいかも
しれない。しかし、私は縁起が悪そうで行くのをためらった。
だが、少しぐらいはと通りすがりに開け放った扉越しに、そっと
中を覗いてみた。小さなホールに祭壇らしきものが見え、いくつかの
新品の椅子が行儀よく並んでいた。

しかし、夫は散歩帰りに堂々と閲覧してきた。
さらに内覧記念とかで「マスクケース」までもらってきた。
夫によると会場は小さく、2階は休憩室のようで長テーブルと椅子が
整然と設置されていたという。「小さすぎて我が家用には不向きだね」
とは夫の感想であった。

   

最近は身内だけで行う家族葬が主流となり、さらにコロナ禍と
相まってますます小さな葬儀が歓迎されるようになった。しかし、
10人前後の収容人数では我が家では無理だと夫は言う。
その言葉に私はすかさず頭の中で人数を数えてみた。
何とも不遜な話題だが、平然と話題に応じることが出来る自分に
むしろ驚いた。一体私たちは誰の葬儀を念頭に話していたのだろう。
お互いの頭の中を覗き込めないだけに、何とも気になる老夫婦の
会話であった。
       
                  2021年1月
                 (photo by y.y:谷保天満宮にて)


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