自慢話          v5-15

 ジムのマシーンを使って筋トレをしていた時である。
男性二人の会話が耳に入ってきた。一人は年配者、もう一人は
その息子さんぐらいの年齢である。
年配男性曰く「千葉に住んでいる孫が今、受験なので落ち着か
ない毎日だよ」と言う。それを聞いた若いほうの男性が明るく
言い放った。

「うちは、もう決まったよ。とにかく11校も受験申し込みしたん
だけど、センター試験利用方式で合格してね、結局、早稲田に
決まっちゃったよ」と。
「それは良かったですね」と答える年配男性。余り感情のない声
だったが内心うらやましいにちがいない。

  

若い方の男性はさらに会話を続けた。
「息子は学校の成績なんて全然良くなくてね。だいたい450人中の
400番くらいだよ。勉強なんて全然しないから…当たり前か。
徒然草なんかを夢中になって読んでいたり…してね。受験教科だけ
しか勉強しないんだから」

年配男性は返す言葉に苦労しているようだ。「ちゃんといい
とこに合格するんだから大したもんだよ」と言うと若い父親は
「ま、そういうことかな。しかし、あいつは天才だよ。勉強
すればもっと出来るんだがねぇ」

  

私は他人の前で、我が子を手放しで褒める男性を初めて知った。
そこでさりげなくチラッと視線を彼に向けた。ちょっと小太り
な男性でとてもサラリーマンには見えない。
平日の日中にジム通いだから、きっと自営業にちがいない。

彼はトレーニングの手を休めて年配男性に近づきさらに息子の
自慢話を続けるつもりだ。だんだん年配男性の声が小さくなって
きた。他人の自慢話を長々と聞かされる方は気の毒である。
喜びで有頂天の彼には他人の気持ちなどの配慮は全く無いようだ。

人前での自慢話は、さりげなくさらっと口にするのが良さそうだ。
しかし、自慢話で一番重要なのは中身である。
常に孫や子供たちのことだけだと考えると寂しい。では自分自身に
関してはどうか…これが思いつかないのが口惜しい限りである。

               2020年2月
               (photo by y.y:昭和記念公園にて)
            


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