勘違い v5-10
A君から電話をもらった。M君が入院したそうだ。
病名は〇〇君がかかったのと同じらしい。〇〇君はこれで命を
落としたから心配だと言う。さらに病室は個室が取れなくて
6人部屋で大変らしい。入院は2週間でいろいろと検査をすると
いう。ことによったら1か月になるかもしれないらしい。落ち
着いたら山川さんに連絡すると言っていたそうだ。
M君と言えば先日のクラス会で会ったばかりだ。
彼はいろいろと病気を抱えてはいるが、越後湯沢温泉では元気
な顔を見せてくれた。あれからまだ1か月と経っていない。
その後、1週間ほど経ったが入院したというM君からは何も連絡
が入らない。きっと検査でくたくたになっているのだろう。
そう思ってはみたが、何か彼にエールを送ってあげたくなった。
そこで携帯電話のSMSを使いショートメールを送ってみた。
だがこれもなしのつぶてだった。
そして数日たったある夕方、M君から電話がきた。元気な声だ。
きっと病状が好転したのだろう。
「退院できたんですね!」と開口一番尋ねると
「いや、リハビリ病棟に来週早々に移ることになったので」と言う。
「あらっ、それはよかったではないですか、今はどちらに?」と
尋ねると「家に居ます」と言う。
「あら、そうなの、今日は一時帰宅なのね」と言うと彼は
「いえ、僕は毎日病院通いで大変です」などと言う。
そこでようやく私は会話がかみ合わないことに気が付いた。
「入院されたのはどなた?ですか?」と尋ねると
「家内だよ」と言う。「えっ、奥様なの?!」
暫く受話器の前で絶句…この際、彼でなくて良かったなどと滅多
なことは言えない。長年連れ添った奥様が入院されたのである。
口先でモグモグ言いながら、「病院へのお見舞いも大変ですねぇ」
などと月並みなことしか言えなかった。
M君の情報を知らせてくれたA君はすっかりしょげ返っている。
「ボケたのかもしれない…」などと言って。
しかし、私も経験があるが勘違いは聞いている方だけの責任とは
言えない。伝える方も大いに責任がありそうだ。
困ったことにこの種の勘違いは加齢とともに増えてきた。
伝える内容は発信者も受け取る方も充分注意して欲しいものだ。
間違っても「△△さんが亡くなった!」なんて恐ろしい勘違いの
知らせだけはご免こうむりたいものである。
2019年11月
(photo by y.y:宝徳寺にて)
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