ナンバー1の紅葉    v5-09

 
秋になるとやはり見たくなるのは紅葉である。
今年は娘夫婦と一緒に東北方面に行ってきた。八甲田山麓と
奥入瀬渓谷である。2泊3日の旅は娘婿の運転ですこぶる
快適だった。
そんな紅葉狩りを毎年楽しんではいるものの、めったに目を
見張るような紅葉には出会わない。しかし今回の青森旅行
では一度だけ車の中で歓声を挙げた瞬間があった。紅葉の名所・
八甲田山麓にある田代平湿原に向かう途中であった。

赤や黄に染まった木々が青空を覆い隠し、トンネル状になった
林道を暫く走った。その間、車中で発した言葉はただ一つ
「ワーワァー」だけであった。
この光景は私にとってはベスト3に入るだろう。



ベスト1は何といっても涸沢の紅葉である。これ以上の紅葉は
今まで一度もお目にかかったことがない。
先日、久しぶりにここで撮った写真を見たらすっかり色あせて
いた。人物も背景も。もっとももう30年も昔の写真である。

あの紅葉の素晴らしさを言葉で伝えるのは難しい。
実際に行って目の当たりにしてもらうのが一番だが、それがまた
難しい。涸沢までは上高地から6時間以上歩かないとたどり着け
ない。私にとってもう二度と出会えない光景だと思うと猶更格別
な紅葉になってしまうのだろう。



そんな折、NHKで「穂高を愛した男・宮田八郎」という番組
があった。52才で逝ってしまった彼の映像記録である。
その中に私が期待していた涸沢の紅葉があった。
うっすらと雪化粧した穂高岳の山容を背に涸沢の紅葉が広がって
いた。ナナカマドの深紅、ダケカンバの黄色、ハイマツの濃い緑、
実に「3段染め」だとナレーターが紹介していた。
これこそまさに私が見た光景であった。

この映像を見た日、ニュースでは八甲田山の冠雪を告げていた。
私が見た、あの東北の紅葉も恐らく3段染めになった瞬間があっ
たことだろう。きっと目を見張るような光景だったに違いない。
しかし、それでも涸沢の紅葉は私の中ではナンバー1である。
              2019年11月
           (Photo by y.y:八甲田山周辺にて)
 


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