これがイタリア?!(イタリア編No.1) v5-01
国際空港はその国の玄関、その国独自の印象を醸し出す不思議な
香りを持っている。
スリランカ、インドネシア、ネパール、台湾、タイなど、東南
アジアの国々に降り立った時を思い出す。私はその独特な香りに
つつまれる度に、「ああ、異国に来たんだなぁ」との感慨に
浸ったものである。
しかしあの香りは一体何だったのだろう。恐らく、その国独特の
香辛料の香り?あるいはその地域に暮らす人々のいわゆる
生活臭みたいなものだろうか。では日本はどうなのだろう。
帰国する度に考えてみるが特別に何も感じない。
ただ「あぁ日本国だ」という心地よい安らぎの空気を膚で
感じるだけである。
ヨーロッパの国々はどうだろう。多くの国々を訪問したわけでも
ないが、空港にはデパートの化粧品売り場に紛れ込んだような、
甘くて強烈な香りがあった。イギリスのヒースロー空港、スイス
のジュネーブやチューリッヒ空港などはいつもそうだった。
私にはどこか洗練された人工的な匂い、成熟した文化の香りを
感じたものだ。
今回、私にとって初めての国、イタリアはどうだろう。
これは私にとって小さな楽しみとなった。長い12時間半の
フライトのあと、飛行機は滑らかにランディングした。
こうして私は初めて地、ミラノの国際空港に降り立った。
すぐに入国審査のために長い通路を歩く人々の一員となった。
所どころに小さめの彫像が設置されていた。意外と地味で
殺風景な通路である。その内、空港独自の匂いがないことに
気が付いた。何処へ行ってしまったのだろう。まさか自分の嗅覚
が劣化してしまったのではないかと慌てた。
何といってもここはミラノ、洗練された文化の発信地のひとつ
ではないか。欧州の国々を思わせる強烈な香りが私を迎えて
くれるはずだったのに。
漫然とした思いで通路を歩きスーツケースの引き取り所に出た。
そこでトイレ前に出来た長い行列の一員となった。ようやく
トイレの扉が見える位置に来た。
そっと中を覗き込んだ時、思わず仰天してしまった。
トイレの個室は4個、そのトイレの扉全面を使って真っ赤な
カーネーションとオレンジ色のバラの大輪が一輪ずつ扉の全面
を使って描かれていた。大胆、豪快な描写。しかもトイレの扉
である。
こんなところにイタリアが潜んでいたと私は心が躍った。
しかし、アート?鑑賞はそこまでであった。扉を開けて中を
見て驚いた。沢山のトイレットペーパーの破片が足の踏み場も
ないほど床に飛び散っていた。いつ掃除したのだろう。
扉を挟んで存在するこのちぐはぐな違いは何だろう。
もしかしたらこれもイタリア?
日本人ガイドは「イタリア人は働くのが嫌いなんですよ。好きな
ことは熱心にやるのにね」と言う。
恐らく扉を花でいっぱいにした絵描きは絵を描くことを仕事とは
思わなかったことだろう。彼もしくは彼女は絵を描くことが
好きで好きでたまらなかっただけである。きっと。
2019年7月
(photo by k.y:ミラノにて)
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