いくら欲しかったの?   V5-74

 Eメールという便利な機能のおかげで
イギリス居住の友人・バーバラとの交流が長く続いている。
その彼女から久しぶりにEメールが届いた。
その内容を見ると何やら慌てている様子だ。

メールの内容は…
「突然のメールでゴメン!今、2,3分メール出来る時間ある?
電話はかけないで!」となっている。
「電話をかけないで!」とは何とも不思議な要求である。
ちょっと引っかかったが、差出人の名前とアドレスは正しい。
そこで私は即座に反応して
「どうしたの?ご無沙汰してしまってゴメン。私も元気で
生きているわよ」と返信メールを送った。
するとすぐにメールが届いた。今度のメールは長文だった。



内容は…
「お返事下さって有難う。実は今日、癌で入院中の友人の
誕生日なの。彼女を励ましたいとアップルのEギフトカード
を贈ろうと思ったら、私のカードが拒否されてしまい、
銀行がそれを修復するのに数日かかりそうなの。近くの
お店も皆、品切れで、私の代わりに買って送ってくれない?
勿論、銀行の問題が解決次第、すぐに貴女に返金するわよ。
もしOKなら、友人のメールアドレスと金額、教えるわね」

メールの最後にはいつものバーバラのサインがあった。
しかし、私は半信半疑のまま、再度、返信した。
「私はEギフトカードを購入したことはないし、購入の
仕方も分からないの。お役に立てなくてゴメン!」と。

するとすぐにメールが届いた。そこには…
「“セインズベリイ”か“テスコ”または“アップルショップ”へ
行ってEギフトカードを買って欲しいの。お願い!」という内容だ。

ここへきてようやく私は確信した。これは詐欺メールだと。
第一、買って欲しいと私に指示した店の名前、
特に“セインズベリイ”はイギリスのスーパーの名前で
日本には存在しない。
メールの送信者は、宛名の“かつえ”なる者が日本在住の
女性とは知らないようだ。
もしかしたらバーバラのEメールアドレスが誰かに
乗っ取られたかもしれない。その時、私はバーバラが
1年ほど前に新しいメールアドレスを作ったことを思いだした。



そこで早速、今まで使ったことがない彼女のメールアドレスに、
私も初めて使用する自分のアドレスからメールを送ってみた。
するとすぐに届いた彼女のメールには…
「メール送っていないよ。貴女からのメールも一つも
受け取っていないよ」である。

「やはり…」という思いで、私は今までのいきさつを
詳しく彼女に知らせることになった。
彼女は「そのメールは私の名前をかたった詐欺メールよ!
本当に腹立たしい!貴女にも届いたのね。他に何人か
受け取ったみたい。でも貴女も含めて誰も詐欺に遭わなくて
ホッとしたわよ」とのことだった。
その後、彼女の乗っ取られたメールアドレスはアクセス
不能となった。

私は身元不明の詐欺師と数回メール交信してしまった。
何だかイヤな気分だ。よく考えると、あのしっかり者の
バーバラが遠く離れた友人にお金を借りようなどと
考えるはずもない。

それにしても恐れ入ったお話である。
電子マネーの類を買わせる詐欺は、我が家ではまだ記憶に
新しい。このような詐欺が簡単に海を越えて私の身辺にも
やってくる時代になった。恐ろしい世の中になったものである。

しかし、あの悪人、いったいいかほどの金額を手にしようと
もくろんでいたのか。ちょっと聞いてみたかった金額である。

     2024年7月


   photo by y.y:乗鞍高原にて(2016年)

 
 top  y.y.corner f. salon  essay old