演奏会 v5-38
最近、生の芸術に触れる機会がすっかりなくなった。
コロナ禍のせいだ。そんな折、孫が通う大学のOB管弦楽団の
演奏会があることを知った。会場も近く、何よりも孫の先輩
たちの演奏会とのこと、親しみを覚えて出かけてみた。
アマチュアの演奏会、しかも無料とあって過剰な期待は禁物
である。しかし、会場に着いて驚いた。開場を待つ長い行列
である。若い人たちに交じり中高年も多い。杖をつきやっと
歩いているお年寄りもいる。
こんなにも多くのクラシックファンがいたことに改めて驚いた。
が、私のように孫や子供が通う大学であるという親近感から
来ている人も多かろう。もっともこの定期演奏会は33回も
続いているから長年のファンもいるにちがいない。
(谷川岳の双耳峰を望む)
演奏は時間通りに始まった。
最初の曲はボロディンの「中央アジアの草原にて」であった。
クラリネットとホルン奏者の出番である。しかもソロ演奏が
多いせいか素人の私でも演奏の良し悪しが分かりやすい。
内心ドキドキしながら耳を傾けたが、そんな不安はすぐに
吹っ飛んだ。指揮棒を見つめ、自信に満ちた堂々とした演奏で
周囲を圧倒した。とてもアマチュアとは思えない。
この上出来の演奏を聴きながら、昔、学生だった頃に行った
演奏会を思い出した。場所は京都会館の大ホール、早稲田大学
と立命館大学との交換演奏会であった。
早稲田大学のオーケストラの時だった。曲目は忘れたが、
指揮棒を握った学生の動きは今も鮮明に記憶に残っている。
(奥利根方面を望む)
あろうことか彼が右方向を向き指揮棒を振り上げると、彼の
背後から音が鳴りだした。
あれ、いいのかなぁ…などと思っている内に再びそんな情景が
繰り返された。演奏者は指揮棒を見ていなかった。
にもかかわらず演奏は滞りなく進んでいった。アマチュア、
しかも学生たちの演奏は、昔はこんなものだった。
あれから長い年月が過ぎた。学生とOBとの違いはあるとしても、
アマチュアの技量は随分と上がったものだ。演奏ミスを心配して
ヒヤヒヤすることはなかった。
むしろそのような心配は無礼だったかもしれない。
それにしても社会人の彼らはどんな日常を送っているのだろう。
まさか音楽三昧の毎日ではないと思うが。
伸びのある澄んだ音色に包まれながら、今度は楽団員たちの
日常を詮索してみたくなった。
2021年10月
(photo by y.y)
top y.y.corner f. salon essay old