トイレ行列(イタリア編 No.2) V5-02
団体行動でのバス席は前方がいいらしい。ツアー仲間たちの動き
を見てそう思った。しかし、私たちは、いつも遅れを取って後方
の席だった。だが、最後部も悪くはなかった。
二人で後ろの座席を占領できたし、常にカメラ目線の夫には左右
の窓を自由に移動できて具合が良かった。
しかし、トイレタイムの時は大変だった。
いつもバスから降りるのが最後になるせいか、トイレにたどり着
く頃には常に長い行列が出来ていた。それに何処もトイレの規模
が小さかった。日本のパーキングエリアにあるような大型の
トイレ施設とは雲泥の差だ。こうして貴重な休憩時間は、いつも
日本人たちが作る長いトイレ行列の一員となって終わった。
その日、ガイドはトイレにかかる時間を大変気にしていた。
次の目的地に着く時間が大幅にオーバーしそうだったからで
ある。そこでガイドは例の如く長い行列を作る女性たちに
叫んだ。
「列の後ろから4名ほどの皆さん、ここから少しだけ離れた
お店のトイレに行ってくれませんか」と。
その時、私は後ろから3人目に並んでいた。
一番後ろの彼女は「わかりました」と言い、その次も彼女に
従った。二人とも現役世代、50代に見える。そして私も
行きがかり上そうなった。さらにもう一人、60代後半?の
女性が私に従った。期待通り4人がガイドに従って新しい
お店に向かって走った。見たところ150メートルほどで
大した距離でもなさそうだった。目的の店は見えている。
しかし、あなどってはいけなかった。店までは緩やかな登り
傾斜が続いていたが、ここは標高2000mもある高地であった。
「急がなくてもいいですよ」などとガイドは申し訳なさそうに
言ったが、先頭の彼女は軽快な走りであっという間に
店頭に着いてしまった。必死に走った私も次第に足が重くなり
ついに歩き出してしまった。
しかし、何とか3番目をキープして店のトイレに行きついた。
思わぬ高地トレーニングをさせられたものである。
しかし、ガイドには大いに感謝された。
何しろ私たちの頑張りのおかげで、何とか予定通り次の
観光地に到着出来たからである。
チェルビニアの町からマッターホルンを眺めた。
スイスから見た山容とは別物のように見える。しかし、
何よりも先に確認したのはトイレの所在地である。公衆
トイレは町の中心部にあった。見たところ小さめだ。きっと
また長い行列になるだろう。そこで散策を早めに切り上げて
トイレに出向くと案の定、既に長い行列が出来ていた。
行列の人々は皆、我々の仲間、しかも男女が入り乱れて一列に
なっている。男女共用のトイレが一個しかないという
ことが分かった。イタリアに来て5日目、これも
ありえることだと納得できるようになった。
イタリアでの最終日である。滞在したホテルのトイレに行った。
トイレは地下1階、行列もなくゆっくり使用できると思ったが
甘かった。今度はなかなかトイレにたどり着けない。
ようやくたどり着いた所は薄暗い照明が一つだけついている
ひっそりとした場所だった。
数個ある個室の明かりはどこを操作しても付かない。
結局、個室の扉を少しだけ開けてトイレをすませた。
ここは4つ星ホテルである。
この国の人は何を基準に星を定めているのだろう。
いや、これがイタリアに違いない。
イタリアを去る時、少しだけイタリアが分かった気になった。
2019年8月
(photo by y.y: イタリア・ミズリーナ湖にて)
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